ムーミントロールのついた嘘?
本日4月1日はエイプリルフール! 嘘をついても許される日として、世界中で嘘やジョークが飛び交います。
ムーミン谷で嘘の似合うキャラクターといえば、真っ先に浮かぶのはお騒がせスティンキーでしょうか?
それともいたずら好きのちびのミイ(リトルミイ)? ミイはどちらかというと嘘よりも、他の人が口にしたがらない真実をズバッと言ってしまうタイプかもしれませんね。
ミイのお姉さんのミムラねえさん(ミムラのむすめ)も小説『ムーミンパパの思い出』では愉快な嘘ばかりついている女の子として描かれていました。
実はムーミンシリーズには、さまざまな嘘がしばしば登場します。
小説『ムーミン谷の冬』では、騒々しくてちょっと迷惑なお客のヘムレンさんに出ていってもらおうと、ムーミントロールが偽情報を伝えるくだりがあります。
短篇集『ムーミン谷の仲間たち』には、空想と現実がごっちゃになってしまって、本人はほんとうのことを言っているつもりなのに嘘つきだと叱られてしまう小さなホムサのお話が(ブログ「こんなときだから「ぞっとする話」」で詳しくご紹介していますよ)。
さて。今回は、小説『たのしいムーミン一家』(講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集)から、何気ない嘘(ちょっとした軽口?)がきっかけで大変なことになってしまうエピソードに注目してみましょう。
ある春の日、ムーミンたちは山で黒いシルクハットを拾います(その様子はブログ「ムーミン谷の春」をどうぞ)。
そのぼうしには、中に入れたものをまったく別の姿に変えてしまう力がありました。ムーミンやしきがジャングルと化したり、川の水が美味しいジュースになったり、じゃこうねずみの入れ歯が恐ろしい何かに変わってしまったり(この顛末は原作をお読みください)、不思議なことが次々と起こります。
夏の雨がムーミン谷に降りしきる、静かな日。
みんなはムーミンやしきの中でかくれんぼをして遊ぶことにしました。おにになったのはスニフです。
隠れる場所を探していたムーミントロールは黒いシルクハットに目を留めました。ぼうしを頭からすっぽりかぶって、あたりを伺っていると、他のみんながひとりまたひとりと見つかっていきます。
残すはムーミントロールただひとり。彼を探して、みんな走り回っています。
いつまでたっても見つけてもらえないので、みんなが飽きてしまったのではないかと心配になったムーミントロールは、ぼうしの下から出て、「おにさんこちら!」と言いました。
ところが、スニフはムーミントロールの顔をまじまじと見つめて、冷たい声で「なんだおまえ」とひとこと。スノークのおじょうさんも「あの人、だれなのかしら?」と声をひそめます。
魔物のぼうしの中にいたために、姿が変わってしまっていたのです!
そんなこととは夢にも思っていないムーミントロール。スノークのおじょうさんから「まずはあなたが名乗らなきゃ。わたしたち、あなたがだれか知らないのよ」と言われると、新しい遊びだと思い込んで、愉快そうに笑い、「ぼくは、カリフォルニアの王さまだぞ!」と名乗りました。
しかし、みんなは「ぼくはスニフ」「ぼくはスナフキン」と、何のひねりもない自己紹介をするではありませんか。
ムーミントロールがおもしろがって、「ムーミントロールはとんだうぬぼれ野郎」「きらわれものの疫病神」などと言うと、みんなは本気で怒り出してしまいました。
ムーミントロールは元の姿に戻れるのでしょうか……!?
このドラマティックでちょっと怖いお話は、アニメやステージでご記憶の方も多いのではないかと思います。
3周年を迎えたばかりのムーミンバレーパーク、2019年開業のときに「エンマの劇場」で最初に上演されたライブエンターテイメントショーの演目は「楽しいムーミン一家~春のはじまり~」。ムーミントロールの姿が変わるシーンや雲に乗る演出は大きな話題を集めました。
現在は上演終了していますが、劇中歌のムーミンバレーパークオリジナルソング「雲にのれたら」の動画が公開されています。ここで歌われている「雲」も、ぼうしの力で出現したものなんですよ。
昭和アニメ『ムーミン』(フジテレビ系)でも、平成アニメ『楽しいムーミン一家』(テレビ東京系)でも、このエピソードは第1話で描かれています。
新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』のシーズン2第6話「飛行おにの帽子」では、かくれんぼではなく、子ども扱いされることにうんざりしていたムーミントロールがぼうしをかぶって寝てしまい、目覚めたら姿が変わっていた!というアレンジ。原作とは異なり、ムーミントロールは自分が変身してしまったことに気づいていて、なんとか誤魔化そうと、口から出まかせを繰り出します。
そういえば、『ムーミン谷のなかまたち』シーズン1第1話「リトルミイがやってきた」にも、大勢で押しかけてきたミムラ一家にお引き取り願おうと、ムーミン一家が体を張って騙そうとする描写がありましたね。
まだ雪の残るなか、もう夏至だと言い張って、水着で震えながらアイスクリームを食べる姿は何度見ても笑ってしまいます。
嘘だと思いたいような痛ましいニュースが続く昨今、トーベ・ヤンソンが作品に込めた気持ちに想いを馳せつつ、辛くなってしまったときにはムーミンたちに笑顔と力を分けてもらいたいですね。
萩原まみ(文と写真)