母の日によせて、ムーミンママのこと
今年の大型連休最終日、5月8日(日)は母の日。最近、ムーミンママをモチーフにした優しい雰囲気のグッズをよく見かけるような気がしませんか? なかでも、Moominmamma’s Rose(ムーミンママズローズ)と名付けられた新しいプロダクトレーベルからは母の日ギフトにぴったりのアイテムがたくさん♪
お母さんが遠方にお住まいなら MOOMIN SHOPからグッズを送るのがおすすめですが、ムーミンカフェの限定メニュー、ムーミンバレーパークのフェアなど、さまざまな企画が登場しています。お花やプレゼントを贈るだけでなく、お母さんを誘ってムーミンスポットにお出かけするのもいいですね。
さて、今回は母の日にちなんで、ムーミンママについて改めて詳しくご紹介しましょう。
ムーミンのお話の主人公ムーミントロールのお母さんで、家族だけでなく、個性的なムーミン谷の住人たちから慕われる、みんなの心の支えのような存在です。
Moominmamma’s Treat(ムーミンママズトリート)は、分け隔てなくお客さんを迎え入れるムーミンママによるおもてなしをテーマにしたレーベルで、食器やケトル、エプロンなどのキッチンアイテムを中心にシックなデザインのグッズがリリースされています。
ブログ「ムーミン春夏秋冬」では、これまでも何度かムーミンママを取り上げてきました。
食料を確保して家族に美味しいご飯を食べさせるだけでなく、自分で薪割りをしたり、絵を描いて楽しんだり、そんなママの活躍ぶりは「なんでもこなすムーミンママ」をどうぞ。
その一方で、完璧なお母さんというわけではなく、実は苦手な家事があるという意外な一面も。
そして、Moominmamma’s Roseというネーミングにも表れているとおり、ムーミンママといえばバラの花を大切に育てていることでも知られています。
原作でどんなふうに描かれているかというと、例えば、『ムーミン谷の彗星』(講談社刊/下村隆一訳/畑中麻紀翻訳編集)の冒頭の場面。花壇の周りに貝殻を並べていたママは、黒っぽい大つぶの雨が降ってきたので慌てて家に入りました。彗星がどんどん近づき、洞窟に避難することになったとき、ママはバラを掘り起こして持っていこうとします。ムーミンパパが「ぜんぶは無理だよ」と言うと、「黄色いのだけで、いいわ。でも、それはかならずね」と頼みました。ムーミンバレーパークにはこの場面を再現したオブジェがあります。バラが黄色だというところにもご注目!
『ムーミンパパ海へいく』(講談社刊/小野寺百合子訳/畑中麻紀翻訳編集)で、灯台の島に移り住んだときも、ママはもちろんバラを持っていって、庭を作ろうとしました。でも、島の土は石だらけで痩せていて、せっかく集めた海草で出来た土も波にさらわれてしまいます。
物置にあった塗料を使って、壁に絵を描く楽しみを見つけたママが真っ先に描いた植物は大きなバラの花でした。
コミックス『ムーミンパパの灯台守』(筑摩書房刊/冨原眞弓訳)も、「灯台守になる!」と言い出したパパに従って、ムーミン一家が島暮しを始めるストーリー。
このとき、ママはバラの苗だけでなく、ムーミン谷の土も持っていきました。水といえば海水しかないような島でバラを育てるのは無理かと思いきや、大輪の花を咲かせることに成功!
パパが小説を書き上げたことを祝って、ママはバラを切り、次にリンゴの木を植えました。
ムーミンママというしっかり者で包容力あるキャラクターのモデルになったのは、原作者トーベ・ヤンソンの母シグネです。
トーベにとって母の存在はとても大きく、それゆえに母を助けなければという義務感が負担になったり、母とパートナーのトゥーリッキ・ピエティラとの間で板挟みになって苦しんだりすることもありました。
そんなトーベの葛藤は評伝『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』(フィルムアート社刊/ボエル・ヴェスティン著/畑中麻紀・森下圭子訳)や、『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(フィルムアート社刊/久山葉子訳)で知ることができます。
ムーミン小説最後の作品『ムーミン谷の十一月』は、近づきつつある母との別れを覚悟しながら文章を書き、母がこの世を去った悲しみのなかで挿絵を描いた一冊。ブログ「ムーミンたち不在の十一月」ではそんな背景をご紹介しました。
母の日や父の日で世間が賑わうこの時期、寂しい気持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。親がいなかったり、亡くなっていたり、親になりたかったけれどなれなかったり、関係が円満ではなかったり……。そんな方にこそ、ぜひ原作に触れて、理想の母親というだけではない、ひとりの人間(ん? 人間ではなくてトロール? それとも「生き物」でしょうか?)としてのムーミンママについて知っていただきたいなと思います。
萩原まみ(文と写真)