(75)ムーミン谷とムーミンワールド
さて今年にはいってムーミン谷博物館は引越した。新しいところは仮の場所なので、ここでいつまで展示をするかまだ分からない。そんな仮の場所を意識してか、展示内容は冒険と旅の途中を中心にしている。オープン4日で1500人の来場だなんて、フィンランド国内でもムーミン人気が強くなっているのだろう。
仮の場所は小さい。だから立体模型の展示数はかなり減ってしまい、原画の展示総数だって少ない。でも、これまで一度も紹介されていなかった原画がたくさん登場している。また今回の引越しで模型を解体した際に改めて気づかされたというムーミンハウスのディテールの面白さを、パネルを並べて展示してた。小さな小さな豆本も、地下の棚の奥に並ぶジャムの瓶に貼られたラベルも、トーベが文字を書いているのだ。さらに保存状態が悪く、立てると乾いたインクがぽろぽろと落ちてきそうな作品も、今回は寝かせた状態で展示してくれている。展示数は少ないながら、今までとは違う形でトーベ・ヤンソンの世界をたっぷり楽しませてくれる。
そして2月でムーミンの世界といえばもうひとつ、ムーミンワールド。フィンランドの学校がスキー休暇になる1週間だけオープンする。雪かきが難しかったり足場が危険などの理由で、夏よりも自由に歩ける範囲は少ないものの、逆に凍った海に出て遊ぶことができる。ムーミンたちもスキーやスケートを履いてスイスイ滑るし、一緒にそり滑りを楽しんだりもできる。そしてこういう遊びの場で、大人たちが全力で遊んでいるのがなんとも微笑ましい。そりなんて、子供よりもスリリングにかっ飛ばしている。
ムーミンたちがいてくれるだけで安心できるのか、ふと周囲に目をやると、小さな子たちがひとり自分の世界で淡々と遊んでいたりする。しゃがんで雪をいじったり、雪の上にぱたりと体を横たえてみたり、何を見つけて何を思ってそんなに楽しそうなんだろう。気が付けば、大人たちの本気で遊ぶ姿に思わず笑ってしまい、子供たちの夢中さに笑みがこぼれてしまう。この冬は記録的に曇りが続き、青空ってどんなだったか思い出せないことだって1度や2度ではなかった。厚い雲につられて、つい顔も曇りがちだったけれど、ムーミン谷とムーミン博物館で、青空以上のものをたっぷり貰えたようだ。もう大丈夫。
森下圭子
フィンランドのスキー休暇の期間中に1週間だけオープンするムーミンワールド。冬はムーミンたちとスキーやそり、スケートなどで一緒に遊ぶ。
ミイとスティンキーも、ちゃんと列に並んでそり滑り。ムーミンやミイがみんなと一緒に滑ってくれることも。