ムーミンの大きさはどれぐらい?
今回のムーミンクイズはちょっと難問です。ムーミンの大きさって、どれぐらいだと思いますか? 5月4日に放送されたテレビ番組『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)の「埼玉 飯能」の回でムーミンバレーパークが紹介された際には、出演者のユージさんの口から「ムーミンはA4サイズ」という言葉が飛び出し、SNSでは「新しい定義!?」なんて驚きの声が……。これまで、ひとつの答えとされてきたのは「電話帳ぐらい」というもの。これは雑誌『MOE』(白泉社)1990年5月号のインタビューで、児童文学家の角野栄子さんからの、「ムーミンはどれ位の大きさでしょうか」という質問に対するトーベ・ヤンソンの答えに由来します。つまり、原作者の口から出た返答なのです。ただ、伝え聞くところによれば、トーベはその質問に少し戸惑った様子で、手で大きさを示しながら、「そうですね…。まあ大体、電話帳の大きさぐらいかしら」と答えたんだそうです。その場に居合わせた取材陣は「意外に小さいのね」と言い合ったんだとか。
また、別のアニメ誌の取材では、同じ質問に対して「電話帳ぐらい」と答えているのですが、そのときに手で示したサイズが一般的な日本の電話帳よりも大きかった、というエピソードもあります。フィンランドの電話帳のサイズ感も定かではなく、唯一無二の決定的な答えと決めるのはためらわれます。
というのも、原作小説第一作の『小さなトロールと大きな洪水』には、かつてムーミントロールたちは人間の家のタイルストーブの後ろに住んでいた、という記述があるのです。でも、そんな大きさの生きものがストーブの裏にいたら……人間に気づかれますよね!? ほかの場面では、ムーミントロールがメガネを持って走る場面があり、ちょうどメガネと同じぐらいのサイズに描かれています(もっとも、そのメガネは人間ではなく、コウノトリのものですが)。
じゃあ、もっと小さいのかというと、その後の作品にはそうも思えない物がいろいろと登場します。例えば、『ムーミン谷の彗星』でヘムルが集めている切手。切手とムーミンたちのサイズを比較すると、ちょうど人間と人間界の切手ぐらい。この切手は人間が発行したものなのか、それともムーミンたちの世界で発行されたトロールサイズのものなのか。ほかにも、天体望遠鏡やバスタブ、ノート、新聞など、手作りするのは難しそうな工業製品のようなものが出てきます。また、ネコと並んだスニフは、ちょうど人間ぐらいのサイズに見えますが、このネコは人間界と同じネコなのか、それとも……。コミックスにいたっては、例えば『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』としてアニメ化された「南の島にくりだそう」では、ムーミンたちは実在するリゾート地リビエラに出かけて、ホテルに滞在。カジノやプールを満喫します。出てくるキャラクターたちは従業員も客も人間ではありませんが、サイズ感で考えると、人間の存在しないパラレルワールドで、ムーミンたちが人間サイズで生きていると捉えたほうがしっくりきます。一方、小説『ムーミンパパの思い出』で、スニフの父のロッドユールはコーヒー缶に住んでいます。このコーヒー缶が人間のものだと考えると、ロッドユールやムーミンパパたちは電話帳よりも小さいぐらい。風刺雑誌ガルムやフレスコ画に顔を出しているムーミンの前身のような生き物も、かなり小さめ。ムーミン展で見ることができる、1949年の『ムーミン谷の彗星』舞台化のためのスケッチには、人間の耳らしきものと煙草とマッチ箱が描かれているのですが、その絵ではムーミンたちはマッチ箱と同程度の大きさです。
また、トーベが自分の姿とともにトロールたちを描いた絵を見ると小脇に抱えられるサイズで、電話帳より少々大きい(または大きめの電話帳)ぐらいなのも事実。
さて。結論としましては、クイズと言っておきながら恐縮ですが、はっきりしたひとつの答えはない、ということになります。ムーミンはシリーズものではありますが、トールキンの「ホビット」シリーズのような、あらかじめ綿密に練り上げた設定に基づいてひとつの「世界」をまるまる描き出そうとするタイプのファンタジーとはずいぶん異なります。トーベにとって重要なのは、その時どきに語りたい「物語」を語ること。いわゆる設定はそのための装置であって、語るべき物語に合わせて姿を変えるのはむしろ自然なことと考えていたように思えます。ですから、通して読むと、矛盾や謎がたくさん。でも、それこそがムーミンシリーズの魅力なのではないでしょうか。『ムーミン谷の冬』でおしゃまさんも言っていましたよね、「ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね」(講談社刊/山室静訳より引用)って。
萩原まみ
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