(182)大人が観る人形劇【フィンランドムーミン便り】
比較的小さめの人形でも左右の手を別の人が操ることも
photo by Otto-Ville Väätäinen
(先月のつづき)
コミックスだから白黒の世界にしたというムーミン人形劇。コミックスがそうだったように、人形劇もまた、世相をより直接的に反映した構成だという。半世紀以上も前の作品ながら、コミックスには今のフィンランド社会が取り組む課題が描かれている。たとえばアイデンティティと他者との関係性、自然災害と環境問題(彗星)、承認欲求と危機感(金色のしっぽ)などだ。
白黒の世界かつ世相を反映なんて書くと真面目な印象を受けるけれど、実際はパペット(人形)を10人のアンサンブルで操りながら、彼らは歌ったり踊ったりもし、どこか突き抜けた楽しさがあると、関係者たちは言う。
ムーミン人形劇がどんななのか。ほんの少しチラ見せ的に紹介されたのは、二人がかりで登場する大きなフィリフヨンカさんだったり、顔だけ人間のスナフキンとか、これまで想像することのなかった姿。役者の頭にスナフキンの帽子をかぶせ、首からはスナフキンの首から下の人形がぶら下がっていて、人形の手を役者が両手で操る。プレス用の写真を見て、リトルミイも同じ仕様だということが分かった。
前回紹介したように、監督はキャラクターのサイズにこだわっていた。でありながら表情が豊かに表現できる人の顔をそのまま生かす技まであったとは。スナフキンとリトルミイは、どこか観光地にある顔ハメパネルを思い出させた。でもその自由さがとにかく楽しかった。どんな大きさでどんな形でキャラクターたちが登場するのか、ひとつひとつに新鮮な形で出会えそうだ。
ムーミンを読んでいても考えることがある。人はときに先入観をとっぱらうと、これまでとは違う方向から物事の本質に近づけたりして、それまで問題だったことが、全く違って見え、解決方法や新しい取り組み方が閃くこともある。
上演は9月30日(正式な初日は10月1日)から年末まで。推奨は10歳以上の人形劇。できるだけ先入観をとっぱらって観たら、またムーミンの新しい一面に気づけそうな予感がする。
人形劇『ムーミン谷の危機と災難』の劇場情報やチケットの購入はこちらから:
https://hkt.fi/esitykset/kris-och-katastrof-i-mumindalen/
リトルミイとスナフキンは顔が人で首から下は人形。こうすることで他のキャラクターとのサイズのバランスを調整している
photo by Otto-Ville Väätäinen
森下圭子