ムーミンたちはダンスが大好き!【本国サイトのブログから】

ムーミン谷では、たとえ大きな災害に直面していようと、パーティーや楽しい時間を過ごすことは、人生の大切な一部です。この自由と喜びの精神は、よくダンスを通して表現されています。今回は、ムーミンの物語の中のダンスというテーマを探ってみましょう!

楽しいひとときを共有する喜びは、ムーミンの物語の中心にあります。トーベ・ヤンソンは家族や友だちをとても大切にしていました。また、こうしたパーティーを行うことは、世界大戦下で日々をやり過ごすためには大切な手段でした。パーティーにはたいていダンスがあり、ひととき陰鬱な現実から逃れることができたのです。

古い写真やビデオでは、よくトーベがパーティーや島の岩の上で踊っている姿を見ることができます。

この遊び心にあふれた精神と、自由や喜びを表現する手段としてのダンスは、ムーミンの物語を含む、トーベ・ヤンソンの文学にも受け継がれています。シリーズを通して、ムーミン一家とその友だちは、さまざまなパーティーに参加し、また企画するのです。ムーミンたちから私たちが学べることは、お祝いをしたり、ちょっとしたダンスをしたりするのに特別な理由はいらないということなのです!

 

脅威を乗り越えて踊る 喜びと一体感

『ムーミン谷の彗星』(1946年)は、危機や不安に直面しているときも、小さな喜びを持ち続けるムーミンたちの才能をよく表しています。スノークのおじょうさんは、彗星が近づいているにもかかわらず、森の中でのダンスパーティに行きたいと主張するのです。

 

「まあ! わたしダンスしたいわ」
スノークのおじょうさんはそうさけんで、手をたたきました。
「地球がほろびるというのに、ダンスなんかしてるひまがあるかい」
スノークはいいました。
「でも、ダンスするんだったら、今のうちにしなくちゃ。ねえ、兄さん! 地球がほろびるまでには、まだ二日あるのよ」
「売店へいけば、たぶん、レモネードが買えるよ」
スニフが思いつきました。
「そしておそらく、この道はぼくらの行くほうへ、つづいてる」
ムーミントロールがつけくわえました。
「見るだけにすればいいさ。そばを通るついでに……」
スナフキンもいいました。
『ムーミン谷の彗星』(トーベ・ヤンソン/作 下村隆一/訳 講談社)より

「まあ! わたしダンスしたいわ」

この本には、たくさんのダンスのイラストが描かれています。最初のイラストは、森のパーティー全体を遠くから見たもので、さまざまな生きものがペアになり、ダンスフロアで抱き合って踊っている姿が描かれています。

つがいのねずみが気どったようすで、あずまやの中をくるくるおどっています。

『たのしいムーミン一家』(1948年)でも、森は盛大なお祝いで活気づきます。たくさんの登場人物たちが森のまわりに集まって親しげなパーティーを開いているのが見られ、楽しげなお祝いの声が木々の間にさざめきます。

 

するとムーミンパパが、オルゴールを庭へ持ち出して、大きなスピーカーにつなぎました。
たちまち谷のあちこちが、おどったり、はねたり、足をふみ鳴らしたり、くるっと回ったり、羽をばたつかせたりするもので、いっぱいになりました。木の妖精たちは髪をなびかせて舞い、つがいのねずみが気どったようすで、あずまやの中をくるくるおどっています。
『たのしいムーミン一家』(トーベ・ヤンソン/作 山室静/訳 講談社)より

 

「ムーミン」シリーズにおける身体表現に関するシルケ・ハッポネン氏の博士論文(2007年“Vilijonkka ikkunassa - Tove Janssonin Muumiteosten kuva, sana ja like”)によれば、バレリーナのようなムーミンのダンスから、よりアーティスティックなフィリフヨンカやミムラねえさんのダンスまで、キャラクターが踊るスタイルにもそれぞれ違いがあるのだそうです。

 

ムーミンシリーズ最後のもの悲しい物語、『ムーミン谷の十一月』(1970年)では、ミムラねえさんのダンスのシーンによって、明るさがもたらされます。ミムラねえさんの動きと、ダンスの喜びが、詳細に描写されています。

 

ミムラねえさんは、はにかみながら、でも自信に満ちたようすで、部屋のまん中に出ていきました。髪の毛はひざまであり、うまく髪が洗えたことは、ひと目でわかりました。
ミムラねえさんがちらっとうなずいたのを合図に、スナフキンはハーモニカを吹きはじめました。ゆるやかな曲に合わせて、ミムラねえさんは腕を上げて、小きざみなステップで回りだしました。シュー、シュー、ティデリドゥ、と鳴り響くハーモニカのメロディがいつの間にか陽気な調子になってくると、ダンスもどんどん速くなりました。台所の中は、音楽と活気でいっぱいになり、その明るい色の長い髪は、まるできらきらと日の光がおどっているようでした。なんて美しく、なんて、たのしいのでしょう!
『ムーミン谷の十一月』(トーベ・ヤンソン/作 鈴木徹郎/訳 講談社)より

 

また、『ムーミン谷の夏まつり』(1954年)では、フィリフヨンカが夏至祭に心をかき立てられ、かがり火の周りで踊って祝おうとします。

 

「なんていい夜でしょう! この立てふだをみんな燃やして、夏まつりのかがり火をたきましょう。それで燃えつきるまで、おどりましょうよ!」(中略)
フィリフヨンカは歌いました。細い足で、たき火のぐるりをおどり回り、小枝で、火をかき立てて回りながら。
おじさんなんか、もういらない!
おばさんなんか、もういらない!
ビビデバビデブー!
『ムーミン谷の夏まつり』(トーベ・ヤンソン/作 下村隆一/訳 講談社)より

 

『ムーミン谷の冬』(1957年)にもかがり火のお祭りがあります。それは冬のさなか、ムーミン谷が眠っている間に出てくるすべての生きもののための、千年続く伝統です。

 

ふたり同時に、山へ目をやると、黄色い炎が勢いよく上がりました。トゥーティッキが、積み上がった山に火をつけたのです。
またたく間に、その山は下から上まで燃えさかって、ライオンのようなうなり声をあげました。すぐ下の黒い氷にも、そのすがたがあざやかにうつりました。
すると、さびしげな曲がかすかに聞こえてきて、ムーミントロールのそばをかけぬけました。すがたの見えないとんがりねずみが、冬まつりにおくれてはたいへんと、急いでいたのです。
小さい影や大きな影が、山の上の火のまわりを、おごそかにはねまわっていました。しっぽでたいこをたたく音も、聞こえてきます。
『ムーミン谷の冬』(トーベ・ヤンソン/作 山室静/訳 講談社)より

 

「モランはおどっていたのです!」

『ムーミンパパ海へいく』(1965年)では、最も冷たいキャラクター、モランでさえ、ムーミントロールが毎晩訪れて灯すランプの光に喜び、身体を動かして喜びを表現します。

 

モランがカンテラを見るのには、決まった手順がありました。しばらくじっとランプを見つめていてから、歌いだします。あるいは、歌のような音をたてるといいましょうか。ハミングと口笛をいっしょにしたようなかぼそい音でしたが、どこまでもしみ通ってくるのでした。頭の中にも、目の奥にも、おなかの中までも、入りこむような感じなんです。
そして歌といっしょに、体を前へ後ろへゆっくりと重そうにゆすぶりながら、コウモリのかさかさした、しわくちゃのつばさみたいに、スカートをぱたぱたやるのでした。
『ムーミンパパ海へいく』(トーベ・ヤンソン/作 小野寺百合子/訳 講談社)より

 

ダンスの変遷:スウィングからサンバまで

ムーミンの物語は60以上の言語に翻訳され、その多くが長年にわたって何度も版を重ねてきました。多くの版は、文化的な違いだけでなく、その本が書かれたり、編集されたりした時代の流行による違いも示しています。

1946年のスウェーデン語版の『ムーミンの谷の彗星』初版(『Kometjakten』)では、スノークのおじょうさんはムーミントロールに 「スウィングを踊れる?」と聞いています。しかし、その後の1956年の版(『Mumintrollet på kometjakt』)では、マンボの腕前について聞いています。
一方、1951年の英訳版では、サンバになっています。そして、1968年のスウェーデン語改定版(『Kometen kommer』)では、「新しいダンスを踊れる?」と聞くのです。
でも、ムーミントロールが一番好きなのは、いつもワルツなんです!

また、『ムーミン谷の彗星』の初期の版では、スナフキンはハーモニカを吹くとき、つま先立ちで踊っていますが、後の版では両足で立っています。

迫りくる彗星に立ち向かうときも、退屈な日常に変化をもたらしたいときも、純粋に喜びを表現するときも、ムーミン谷にはいつもダンスの時間があるのです! 
もし、ムーミン谷でダンスパーティーに参加するとしたら、あなたは誰と踊りたいですか?

翻訳/内山さつき