目に見えない子 ニンニの物語【本国ブログのサイトから】

ニンニは、姿が見えなくなってしまった子どもです。でも、もともとはちゃんと見えていたんですよ。ニンニがムーミン一家に引き取られたのは、彼女の姿が目に見えなくなってしまったからでした。ムーミン一家は、ニンニに関心を持ち、触れ合い、時にはそっとしておいてあげたりしながら、あたたかく接します。ムーミン谷で起こる、だいたいのできごとと同じように、ニンニとの出会いもまた小さな冒険なのです。

トゥーティッキがニンニをムーミン一家のところに連れてきたとき、ニンニの姿はまったく見えませんでした。目に見えるのは、首につけた銀のすずだけ。初めのうち、ニンニは話すこともせず、声を出すこともしなかったので、そのすずの音だけが聞こえました。ムーミン一家はすぐにニンニを受け入れ、気にかけて、一緒に遊んだり、日々の仕事をしたりするようになりました。それでも、ニンニの理解しがたい部分や、どのように助けてあげたらいいのかがわからないことに、時には心配したり、苛立ったりすることもありました。

 

心ない言葉のせいで透明人間に

ニンニが目に見えなくなってしまったのは、彼女の世話していたおばさんに、心ない扱いを受けたからでした。皮肉ばかり言われておどされ続けたニンニの姿は、どんどん消えていってしまい、ついには完全に見えなくなってしまったのです。

「ムーミンママは、かけぶとんが持ち上がって、ごく小さい山を作るのを見ました。まくらが少しくぼみました」
――『ムーミン谷の仲間たち』「目に見えない子」より(トーベ・ヤンソン/著 山室静/訳 講談社)

ニンニは、きちんとした子どもです。人を喜ばせたいと思い、自分に期待されていることをしたいと思っています。ムーミントロールたちが、ニンニの知らない遊びを教えようとすると、ニンニは楽しいからではなく礼儀として遊びにつきあっていました。リトルミイがすっかりがっかりしてしまったように、ニンニは怒ることができなかったのです。

 

ニンニは意志の強い女の子

ムーミン一家のおかげで、ニンニは少しずつですが、姿が見えるようになりました。でも、自分が何か悪いことをしてしまったのではないかと心配したり、怖くなったりすると、見えるようになっていた部分がまた見えなくなってしまいます。ムーミンママのあたたかい愛情と、おばあさまの薬のおかげで、時が経つにつれニンニの姿はだんだん見えるようになっていきました。それでも、リトルミイが思った通り、最終的にニンニが本当の自分を取り戻すには、きちんと怒るということが必要だったのです。

ニンニをもう一度自由な姿へと導いたのは、ムーミンママへの愛でした。自分を縛るすべてのものから自由になったニンニは、強い意志と気力を持った、笑うことができるエネルギッシュな女の子に変身したのです!

ニンニは『ムーミン谷の仲間たち』の短編『目に見えない子』にしか登場しませんが、小説だけでなく、アニメーションシリーズを通して、多くの人々に影響を与えました。ムーミンのテレビシリーズの音楽を担当した作曲家たちにとって、ニンニのエピソードの音楽は、最もお気に入りのパートとして作曲した曲のひとつなのです。

 

ニンニの物語の言葉たち
『ムーミン谷の仲間たち』「目に見えない子」より(トーベ・ヤンソン/著 山室静/訳 講談社)

「ごぞんじのとおり、人はおどされてばかりいると、だんだんすがたが見えなくなっちゃうものでしょ?」

すずがチリンチリン鳴りながら、階段を降りてきました――一段ずつ、そして一段ごとにちょっと足を止めながら。
ムーミントロールは、このすずの音を朝早くから待っていたのです。

「なんかおもしろいあそびを知ってる?」
「いいえ、でもあそびってものを聞いたことはあります」
ニンニが高い声でいいました。

ニンニはひざをおっておじぎをしては、まじめな顔で「もちろんです」とか「とってもたのしいです」とかいうのですが、ただおつきあいでやっているだけで、ちっともおもしろがっていないのが、すぐにわかりました。

「あのさ、たたかうってことをおぼえないかぎり、あんたは自分の顔を持てるわけないわ。ほんとよ」

ニンニは桟橋の上に立っていました。赤い前髪の下に小さなししっ鼻をつけて、おこった顔をしています。


翻訳/内山さつき