(209)飾られる予定でなかった挿絵たち【フィンランドムーミン便り】

ムーミン美術館のトーベ・ヤンソンに関する企画展は2025年5月18日まで

 

来年はムーミンの物語が世に出て80年ということで、すでに80周年のロゴも発表され、グッズも店頭に並びだした。ヘルシンキのエスプラナーディ公園沿いにあるムーミンショップは、ウィンドウのビジュアルが80周年仕様だ。80年前に出版された『小さなトロールと大きな洪水』の挿絵を使っていて、街ゆく人も立ち止まって写真を撮ったりする。80周年のロゴ入りグッズで私が思わず手にしたのはミステリーボックス。あとでコーヒーや紅茶を入れておけそうな缶の中にはティーバッグの入った小さい箱がいくつも入っていて、中のフレーバーはヒントがあるものの、何味なのかは分からない。この遊び心とちょっとした冒険は、ムーミンにぴったりというか、思わず買ってしまった。

80周年を迎える前にタンペレにあるムーミン美術館では常設展の作品が入れ替えられた。ムーミンの原画はもともと展示や飾られることを念頭に描かれたものではない。あくまでも書籍になるための挿絵だったり表紙画だったりする。寄贈される80年代までは自宅で保管されていた原画は、経年劣化で絵を立てるだけで、ホロホロと色が落ちてしまうものもある。今はかなり工夫ができるようになったとはいえ、それでも長時間、ずっと光が当たる環境に置いておくのは良くない。修復だけでなく、原画は時々寝かせて休めておく必要があるのだそうだ。

これまでも様々な工夫をしながら、貴重な原画を見てもらえるように美術館は努力を続けてきている。時には遮光カーテンで囲まれた暗室のような小さな部屋に、立てることができないくらい塗料が脆くなっている表紙画がほぼ寝かした状態で展示されたこともあった。その時は、人が部屋に入った時だけ、控えめな照明がぽっとついて鑑賞できるような仕組みだった。

トーベ・ヤンソンが原画を寄贈してくれたことで実現しているムーミン美術館。トーベ・ヤンソンが寄贈の際に出した条件は、ムーミンがいつでも見られるように、つまり常設してくれることだった。とはいえ原画は元々展示されるために制作されたものではない。紙もインクも塗料も、書籍のために使われたものたち、つまり印刷向けに使われたものたち。しかも長年自宅に保管されていたのだ。そんな作品をこれからも長く展示し続けるため、美術館は様々な工夫をしている。

最初の絵が描かれて80年。ムーミン美術館では作者トーベ・ヤンソンの人生に焦点をあて、トーベ・ヤンソンの多才な創作活動とその暮らしぶりを紹介する企画展が行われている。この冬フィンランドを旅するなら、ヘルシンキ美術館と合わせてタンペレのムーミン美術館の新しい常設展や企画展にもぜひ足をお運びください。

 

ムーミン80グッズで早くも人気のミステリーボックス

森下圭子