(221)ムーミンのクリスマス物語【フィンランドムーミン便り】

ヘルシンキでクリスマスの風物詩といえば1949年から続くストックマンデパートのショーウインドウ。今年のテーマはムーミン。

 

フィンランドではクリスマスの挨拶に『ムーミン谷の仲間たち』から短篇「もみの木」を引用する人が少なくない。いつもは冬眠しているためにクリスマスを知らないムーミン一家。ところが冬に目覚めてしまう。周囲がクリスマスの準備でバタバタしているのを見て、「クリスマスさん」がやって来る!と周囲の様子を伺い推察し、自分たちなりに備える。

私のフィンランドでの生活は、クリスマスが何かわからないまま周囲の様子を見て察したり真似したりするムーミン一家みたいなことの連続だと思う。31年暮らしていて、今でもそんな瞬間がある。「あなたが考えたそれでいい」という風潮の強いフィンランドでは、予め細かく教えてもらえないことばかりだ。それは自由でいいとも言えるけれど、自分で想像したものが全く的外れで、たとえば何かの会で一人だけ装いが違ったなんてこともある。皆はそれでいいのよと言うし、後々いい話のネタになるくらいに思う自分もいる。でもやっぱり、今でもこういう場面で気にしてしまう自分がいる。

夏に「たった一つの正解」ではなく「あなたは」を問われたストックマンデパートのクイズラリーのことをここで紹介した。クリスマスシーズンになり、ヘルシンキの風物詩でもあるデパートのショーウインドウがムーミンの物語になると、再度、デパート全館を使ったクイズラリーが行われた。案内には「友だちとやれるとさらにいいね」とあったので、友人とトライした。今回は「あなたならどうする?」と問われた上で具体的にどんなことを考えているかを答えるので、答えは無限。他の人たちとの違いを楽しむような質問が続いた。

モランのために照らしておく灯りをどうするか。ロウソクの人もいれば、オイルランプ、懐中電灯など、絵に描くとさらに個性が出た。日常でほっとするのはロウソクや焚き火で、でも遠くまで光を届けるなら松明かもしれないし、原作を考えるとオイルランプ、さらに何日も照らしておけることを考えると懐中電灯もいい。他の人の回答と比べながら、自分がなぜそれを選んだのかを考えることも、他の人がなぜそれを選んだのか聞くのも楽しい。

正解でなく「あなたは」と問われる文化の中で暮らすようになって、私はどこか自由になった。周りはどうするんだろうとか、普通はどうなのかと察したりすることに、前ほどのエネルギーを費やさなくても済むようになったからだ。でも自由が当たり前になり過ぎて感覚が麻痺することだけは避けたいと思う。私が「当たり前」だと思っていることは、誰かにとっては初めてのことだったりする。クリスマス休暇に入り、「もみの木」をはじめ『ムーミン谷の仲間たち』を再読したり、お互いがお互いのことを考えたり語り合えたりする時間をいつも以上に大切にしたいなと思う。

 

夏に続き冬もデパート全館を使ってのクイズラリー。今回は冒険と仲間にまつわる質問や課題が。