(71)ムーミン谷のお引越し
オープンから25年、ムーミンの原画や立体模型を展示しているタンペレ市のムーミン谷博物館が引っ越すことになった。11月25日でお別れ。新しいオープンは2013年の第1週目の予定(フィンランドの場合予定はあくまでも未定)。
トーベ・ヤンソンはヘルシンキで生まれ育ち、長い夏の暮らしもペッリンゲという群島の地域。タンペレとは縁も所縁もないのに、そこにムーミンの美術館があるのはどうしてか、ときどき尋ねられることがある。これはいくつかの偶然が重なってタンペレになったのだ。トーベはもともと自分の作品を寄贈することを考えていたけれど、ひとつだけ条件があった。それは常設できること。絵が見たいと思った人にいつでも絵を見てもらえるようにすることだ。彼女はヘルシンキにも声をかけたものの、当時それにふさわしい場所がないということで、ヘルシンキは話しを進めなかった。
トゥーリッキ・ピエティラのタンペレ市立美術館での個展をきっかけに、タンペレの美術館とやりとりすることがあり、トーベの寄贈の話や常設の話に即答したのがタンペレ市だった。実は同じタイミングでトゥーリッキの弟レイマ・ピエティラが夫人と共に設計したタンペレ市立図書館が完成するときで、急遽ここの書庫に予定していたこの図書館の地下で、トーベ・ヤンソンの原画を常設すればいいということになった。レイマといえばトーベのアトリエのリフォームも夏の小屋も設計し、トーベが信頼する建築家。そんな彼が手がけた空間でムーミンの原画を展示するとなれば......想像に難くないと思うけれど、トーベはこの空間作りにも積極的に関わることとなった。
人生でほとんど接点のなかったはずのタンペレなのに、次々と不思議な縁で繋がれ、そしてムーミン谷博物館が完成した。トーベはタンペレ市立美術館に2000点にも及ぶ作品を寄贈する。すべての作品はトーベの手によって、丁寧に台紙に貼られている。
オープンから何度か改装があったため、当時からは随分と変わったところもある。でも夏の部屋と冬の部屋、全体の薄暗い感じ、腰をかがめて子供の目線に立って絵を眺めるその按配は今でもしっかり受け継がれている。
1月からの引越し先は市立美術館の地下。展示スペースが小さくなるため、絵画の展示数、特に立体模型の展示数がかなり減ることになりそうだ。ここからまた引越しをするかもしれないけれど、当面はここで展示が続けられる予定。
トーベが関わった空間設計の中でムーミンの原画を見られるのは、これが最後のチャンスになります。もし機会があれば、ぜひお立ち寄りください。
森下圭子
ムーミンのビンテージは相変わらず人気が高い。同時に職場などで、昔から持ってる古いムーミン食器を気楽に日常使いしている人たちだって多いのがフィンランド。
トゥーリッキ・ピエティラの立体ムーミンを元に作られているこの銅像は、見る方向によって表情がコロコロとかわる。雨の中のムーミンも、またいい。
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