ムーミンとお月さま【ムーミン春夏秋冬】
中秋の名月など、お月さまにまつわる行事の多い9月。
月を愛でるのは主にアジアの風習だそうですが、ムーミンたちはお月見をするのでしょうか?
ムーミン谷の月といえば、真っ先に浮かんでくるのが小説『ムーミン谷の冬』の表紙。黄色い満月を背にして橋に座るトゥーティッキとランタンを持ったムーミントロールが向かい合っています。
グッズでも人気の高い絵柄で、ARABIAの2006年の冬マグやコレクターズプレートはこの月と橋の部分に他の絵を組み合わせてアレンジしたものです。
トーベ・ヤンソンが生まれ育ったフィンランドでは、夏の間は深夜になっても(場所や時期によっては朝まで)薄明るい白夜が続きます。昼間に白い月が見えることがあるように、白夜でも月が見えないわけではないのですが、やはり印象は薄め。
逆に、太陽が昇らない日もある冬の間、暗闇を照らしてくれる月はとてもありがたい存在です。
暗い冬を照らす満月
ムーミンたちは春まで冬眠して過ごすのが習わしですから、冬のお話は少ないのですが、例外的に冬を舞台にした『ムーミン谷の冬』の挿絵にはたびたび月が登場します。
そもそも、ぐっすり冬眠していたはずのムーミントロールが目を覚ましてしまったのは、窓から差し込む月の光がまっすぐ顔に当たったからでした。
青白い月明かりに照らされて、見慣れているはずのムーミンやしきの室内がいつもと違って見えます。
頼りになるムーミンママもぐっすりと眠ったまま。
ムーミントロールの心細さ、しんと澄んだ冬の空気の冷たさが伝わってくるようです。
月から見たムーミン谷
実は、意外な形で月が出てくるのが『たのしいムーミン一家』です。
ムーミン谷で大パーティーが開かれた8月の夜、濃いオレンジ色の月がすべるように昇り、神秘的な光であたりを満たしました。
月のクレーターに腰を下ろしていたのが、魔法つかいの飛行おに。
黒ヒョウにまたがって大空を駆け、幻の宝石であるルビーの王さまを何百年も探し続けていた飛行おには、疲れて果ててひと休みしていました。
そんな彼の目に飛び込んできたのが、パーティーの席上、トフスランとビフスランがみんなに披露したルビーの王さまの赤く強い輝き! 一目散でムーミン谷へと駆けつけます。
その後の場面で、魔法の力によって浮かび上がったパーティーのテーブルの背景にも、さっきまで飛行おにのいた月が描かれていますよ。
新月に願いをかけるスナフキン
もうひとつ、月にまつわる興味深いエピソードが短編「春のしらべ」(『ムーミン谷の仲間たち』収録)にあります。
南の旅を終えて、新しい歌のことを考えながら北へ北へと向かっていたスナフキン。小さなはい虫から話しかけられ、名前をつけてほしいと頼まれます。
ティーティ・ウーと名づけてあげると、はい虫は大声でその名を叫び、茂みの中へ姿を消してしまいました。
残されたスナフキンは翌日になっても、いきなりいなくなってしまったティーティ・ウーのことが気になって仕方がありません。
細い三日月が空に昇るのを見たとき、いつものように新月に願いをかけようと思いつきました。
さて、スナフキンが新月に願ったのは……?
新月に願いごとをするというのは、理由ははっきりしないのですが、古くからある風習のようです。
ここで疑問なのは、新月と呼ばれるとき、月は太陽とほぼ同じ方向にあって、地球からは見えない状態だという点。
つまりスナフキンが月を目にした段階で、それは新月ではないといえます(それでも、御利益はあったようですが)。
ムーミンが月へ!?
そういえば、1970年に放送された昭和アニメ『ムーミン』(フジテレビ系)の第19話のタイトルは「月着陸OK!」。
1969年7月にアポロ11号が人類初の月面着陸に成功し、世間の関心を集めていたことにヒントを得たと思われるユニークなオリジナルのストーリーです。
原作の小説では『ムーミンパパ海へいく』や『ムーミンパパの思い出』の挿絵にも月が出てきますが、どことなく寂しげな雰囲気のものが多いような気がします。
一方、ムーミン・コミックスでは、ロマンチックな局面や夜の冒険の場面でも月が効果的に用いられています。
秋の夜長、ムーミンのお話を楽しむときには月の描写にもぜひ注目してみてくださいね。
萩原まみ(text by Mami Hagiwara)