
ムーミンのポストカードが世界中のファンをつなぐ【本国ブログのサイトから】
トーベ・ヤンソンは、数々のポストカードを描いてきました。妖精や動物、それにムーミンたちもいます。トップの写真は、そんなムーミンたちのポストカードの原画です。今ではムーミンのポストカードに喜ぶファンが世界中にいるのです。
ポストカードを送り合ったり集めたり、世界中でムーミンファンがつながっています。なかでも熱心に活動しているのがポストクロッシング協会のメンバー、フィンランド北部の町ケミに暮らすアイリ・レウクマーヴァーラさんです。この数十年、アイリはムーミンのポストカードをコレクションして世界中に送り、ホスピスにいる患者のパートナーや、ウクライナの戦争に苦しむ人々をなぐさめたり、元気づけたりしてきました。
トーベ・ヤンソンによるイースターのポストカードの原画。
アイリがコレクションしたムーミンのポストカードは700を超えるといいます。
「ムーミンのポストカードは温かい抱擁のよう」
ポストカードを集めはじめる前からずっと、ムーミンは生活の一部だったとアイリは話します。
「ムーミンの人形、スプーン、本を集めていました。ムーミンたちは生活に自然に入り込んでいたんです」と彼女は笑います。
ポストカードも自然と集まっていきました。
「私は生まれてこのかたポストカードを集めてきたんですが、ムーミンのカードを集めはじめたのは20年くらい前です。私にとって、ムーミンは平等、喜び、そして光のシンボルなんです。ムーミンたちは親しみやすくて、抱きしめたくなる存在なんですよね」
700枚のムーミンのポストカード
驚くことに、アイリは700種類ものムーミンのポストカードを持っています。ポストカードを収納するには何冊ものアルバムと、専用のファイルキャビネットが必要なほど。
「ムーミンには、ムーミンだけを集めたアルバムがあるんです!」とアイリは目を輝かせて言います。
「年に一度、私は“お焚き上げ”をします。つまり、2枚あるカードを燃やすのです。もうファイルキャビネットを買いたくはありませんからね。でも、ムーミンは1枚も燃やしてないんですよ!」
友人たちのおかげもあって、アイリのコレクションは増え続けています。
「友だちは、私がムーミンが好きだということを知っているので、自分で作ったカードをよくくれるんです」
ポストクロッシング 世界中とつながる
ポストクロッシングは、ランダムに選ばれた受取人にカードを送る、ポストカード愛好家の世界的なネットワークです。アイリは19 年間この活動に携わっており、フィンランドで最も活動的なメンバーの一人です。
「これまでに送ったり受け取ったりしたカードは合わせて約15000枚、そのうち7000枚はポストクロッシング公式のカードです。ちょっとした世界旅行のようですよね。1週間で届くこともあれば、6か月かかることもあります」
ポストクロッシングの会員は80万人以上で、20年で、計8000万枚以上のハガキが送られてきました。現在は、39万枚以上のポストクロッシングカードが、コミュニティのさまざまなメンバーの間でやり取りされています。
ムーミンはポストクロッシングのコミュニティの中で、特に人気があります。
「フィンランドから届くポストカードで一番期待されるものといえば、ムーミンとサンタクロースです」とアイリは言います。
「中にはきれいな切手が欲しいという人もいます。そういう人には切手にお金をかけて、よりシンプルなカードを選ぶかしらね」
フィンランドは人口の点から見てポストクロッシングが最も活発な国で、フィンランドのメンバーからは20年間で合計450万枚のカードが送られました。ポストクロッシング愛好家は世界中にいますが、特に日本、アメリカ、ロシア、ドイツ、オランダ、台湾で活発です。
今年は3つの記念年
2025年は、ポストクロッシング協会20周年、フィンランドポストクロッシング協会10周年、ムーミン80周年の記念年です。フィンランドポストクロッシング協会は、2025年のアーティストとしてトーベ・ヤンソンを選びました。
記念年を祝うため、ポストクロッシング協会は会員限定のムーミンのポストカードを発行します。
2025年のメンバーシップカードは、ムーミンとスナフキンの友情を表す象徴的なイラストが選ばれました。このイラストにはオレンジ色の郵便受けが描かれていて、趣味で世界とつながることと、郵便によって結ばれた国際的な友情のネットワークを象徴しています。それは、世界とのつながりを維持し育み、希望と一体感を生み出すことの大切さを思い出させてくれるのです。
ムーミン 人生の喜びと国境を越えたつながり
アイリにとって、ポストカードを書くことは、あたたかさとやさしさを分かち合うことです。
「ムーミンのポストカードであたたかい気持ちを送るのは簡単なことです。だって、カードそのものがとても温かいのですから」
ムーミンにでてくるキャラクターはどれも好きですが、特に好きなのはスナフキンとアイリは言います。
「スナフキンは賢くて落ち着いていて、翼が生えていそうなほど軽やかなのに、しっかり地に足がついている。信頼できる友だちです」
郵便受けを見に行く喜び
アイリは趣味の大切さを的確にこうまとめています。
「日々の報道に多くの人が気を滅入らせてしまっています 。そんなとき郵便受けを見に行って、知らない人から小さな喜びが届き幸せになれるなんて素敵なこと」
ムーミンのポストカードとやさしい言葉、国境を越えた交流が、アイリの生活を豊かにしています。彼女の話は、ポストカードを送る小さな行動が、いかに送る側と受け取る側双方に、大きな喜びと人生の意味をもたらすことができるかというよい例なのです。
ポストカードがくれた新しい友だち
趣味を通じて、アイリは世界中に友だちができました。ポストクロッシングでのたくさんの交流は特に思いやりに満ちた思い出です。
「クロアチアに住んでいる、ソナタ・アークティカ(フィンランド、ケミ出身のメタルバンド)のファンは、ケミに遊びに来てくれました! オランダから私の孫に小包が届いたり、ポストクロッシングの友人たちから、クリスマスの小包も届いたりするんですよ」

トーベ・ヤンソンが描いたイースターのポストカード。
ホスピスや戦地に送られたカード
特に深く印象に残っているやりとりもあります。ある年配の女性は、夫がホスピスケアを受けているとき、趣味のポストカードが自分を救ってくれたとアイリに語ってくれました。また、自分の名前が書けるようになるとすぐ、ポストクロッシングのプロフィールを作成したという4歳の少女のことも、アイリは懐かしく思い出します。
「ウクライナでの戦争のことで、私はとても気を揉んでいます。送ったハガキは、届いたという知らせが来るまで6か月もかかったんです――宛先の若い女性はとても落ち込んでいて、6か月もの間、受け取りのサインすらできなかったと言っていました。ウクライナにハガキを送るときは、少しでも喜びを届けることと、元気でいてね、というメッセージを送るようにしています。必要なのは、一番伝えたいことをきちんと届ける、それだけなんです」とアイリは語っています。
翻訳/内山さつき