(90)嵐にさらされる小屋のこと
大掛かりな工事を始めた今年のクルーヴハル。ここには白鳥やガチョウ、そして数えきれないほどのかもめたちが、産卵のために島にいる
夏を前にムーミンの世界も大忙し。6月にはムーミンワールドがオープンになる。7月にはヘルシンキから東へ1時間ほどの町、ポルヴォーでトーベ・ヤンソンとアーキペラゴ(群島)展が始まる。トーベ・ヤンソンがパートナーのトゥーティと2人で愛用していたボートも展示されるという。このボートは、トーベの幼馴染アルベルト・グスタフションの手によるものだ。8月には同じ町で今年94歳になるトーベの弟、ペル・ウーロフ・ヤンソンの写真展も予定されている。
今年はとくにトーベ・ヤンソンの生誕100年ということで、トーベの足跡を求める人たちも多い。今年は特別にと、トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたクルーヴハル島の一般公開が2週間ある。この数年にわたって、島の小屋は毎年大掛かりな工事を余儀なくされていた。今年はいつも以上に人の出入りがあるだろうと予測されるため、大きな工事が続いている。桟橋を新しくし、窓ガラスをすべて替え、サウナのストーブも交換される。トーベのいた頃のままであって欲しいと願う人は多いと思うけれど、嵐にさらされる小さな島の小屋は、思いのほか毎年のダメージが激しい。たとえば外のトイレは何度となく嵐にさらわれているのだ。海水を繰り返しかぶった小屋は、傷みも早い。長年雨漏りに悩まされていた屋根は、ムーミンキャラクターズ社の援助によって数年前に張り替えた。それ以外にも雨戸をはじめ、外側は毎年何らかの形で手をいれているのだ。
電気も水道もないところでの大工工事はなかなか大変そうだ。おまけに建材も大工さんもボートにのってやってくる。でも、そんな大仕事を楽しそうに語り、一緒に小屋をたてていたトーベ・ヤンソンの話を思い出す。
トーベ・ヤンソンの面影を追いたかったのにピッカピカの建物を見ると、少々興ざめすることもあるかもしれない。でも、トーベが愛した自然を、空間をたっぷり味わってもらうために、地元の人たちは島の小屋を支え続けている。トーベとトゥーティがいたら、きっとそうしたように、何度でも建て直し、何度でも修復する。新しい橋をながめていると、ぱっとは想像できない秋の嵐や氷の海に閉ざされたこの小屋のことに思いを巡らす。小屋が部分的にピカピカになっても、春になって相変わらず、この島には鳥たちが産卵のためにやってきた。
森下圭子
7月にトーベ・ヤンソンとアーキペラゴ(群島)展が行われるポルヴォーのアートファクトリーの駐車場では一足早くこんな展示が。砂のムーミンたち。反対側にはミイ、モラン、スニフがいる。
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