ムーミントロールの「勇気」【ムーミン春夏秋冬】

ムーミンの物語の主人公ムーミントロール。彼を紹介する際によく使われる言葉が「勇気」です。では、ムーミントロールが勇気を発揮するのはいったいどんなとき? 今回のブログ「ムーミン春夏秋冬」では、具体的な場面を探しながら掘り下げて考えてみたいと思います。

大切な家族のための勇気

今からちょうど80年前、1946年に発表された『ムーミン谷の彗星』。このムーミン小説第2作を読むと、ムーミントロールの基本的な性格がわかります。

緑あふれるムーミン谷で楽しい日々を過ごしていたムーミンたち。ところが、黒っぽい雨が降りはじめ、美しかった谷が灰色に一変しました。じゃこうねずみは、広い宇宙には数えきれないほどの星があって、ちっぽけな地球なんてパンくずのように簡単に吹き飛ばされてしまうと言います。すっかり怯えて元気をなくすムーミントロールとスニフ

ムーミンパパは、子どもたちがそのことしか考えられないなら、天文台に行って、自分たちの目で星々を見てみたらよいのではないかと思いつきました。ムーミンママはじっくり考え、「あなたたち、ちょっと旅をしていらっしゃい」と息子たちに伝えます。びっくりしたムーミントロールは「ママ、おねがい。ぼくたちをどこかへやらないで」と、しり込み。ムーミンママは「見てきてくれたら、みんなが助かる」と頼みます。

「そしたら、ママが安心できるっていうの?」
とムーミントロールが聞きました。
「そうですとも」
ママが答えると、ムーミントロールはすっくと立ち上がりました。
「ぼくたちが調べてくるよ。ママ、心配しないでね。きっと、思ってるより地球はずっと大きいよ」
(『ムーミン谷の彗星』講談社刊/下村隆一訳より引用)

弱きものを危機から救う

強い覚悟と意気込みとは裏腹に、どんよりした川下りから始まった旅は、ちょっと退屈なくらい。そんなとき、川岸にテントをはっていたスナフキンと出会いました。博識なスナフキンは地球に接近している怖い星の正体が「彗星」というものだと教えてくれ、いっしょに天文台を目指すことに。

ムーミン族によく似た姿のスノーク兄妹について知ったのも、スナフキンの話からでした。妹のスノークのおじょうさんは左足に金の輪、耳の後ろに花を飾り、前髪をいつもブラシで整えている、優しい女の子なんだとか。ムーミントロールはその夜、自分そっくりの女の子に花をプレゼントする夢を見ました。

おさびし山の天文台に到着し、天体望遠鏡で彗星の姿を確かめ、数日後に地球に到達する見込みだと知った一行。ムーミン谷へと帰途を急ぐ途中、森の中から叫び声が聞こえました。悲鳴の主が誰なのかピンときたムーミントロールは短い足なりにせいいっぱいの速さで駆けつけます。するとそこには、真っ青になったスノークと、おそろしい食肉植物のアンゴスツーラにしっぽを捕まえられて恐怖のあまり紫色になったスノークのおじょうさんが!
ムーミントロールはスナフキンからナイフを受け取り、アンゴスツーラを怒らせて気を逸らすために悪口を繰り出しました。台所ブラシ、ひょっとこやろう、おいぼれネズミのしっぽ、死んだブタの昼寝の夢みたいなやつ、シラミのさなぎ……。スニフが「あんなにたくさん、悪口をいえるなんて」と感心するほどの語彙力です。
にくまれ口を次々と浴びせながら、しっぽをいさましく振り立ててアンゴスツーラに切りかかり、切り株になるまでやっつけて、見事、スノークのおじょうさん救助に成功!

このときムーミントロールは、まだ会ったこともなかったスノークのおじょうさんを救うため、怪物と戦いました。まさに「勇気ある行動」といえるでしょう。

友だちを探して

なんとかムーミン谷に帰りつき、どうくつに避難してほっとしたのも束の間、スニフが外へ飛び出してしまいます。自分が大切にされていないと感じ、旅の前に出会って気持ちのよりどころになっていた子ネコを探そうとしたのです。
彗星の衝突が刻一刻と迫っても、スニフは戻ってきません。たまりかねたムーミントロールはスノークのおじょうさんの制止を振り切って、スニフを探しに向かいました。火がついたような熱気に包まれた浜辺を走り、赤く染まった森を抜け……。

はたして、彗星がぶつかるより先にスニフと子ネコを見つけることはできるのでしょうか!?

自分自身のための勇気

小説『ムーミン谷の冬』で、ムーミントロールはなぜか冬眠から目覚めてしまいます。それまでの冒険では大切な人のために仲間と手を取り合ってきましたが、このときはムーミンママさえも起きてくれず、スナフキンは遠い南方を旅していて、暗く冷たく得体のしれない冬にひとりきりで立ち向かうしかありません。

自分のために行動するのは、だれかのために勇気を出すよりも難しいもの。戸惑いながらも、ムーミントロールはさまざまな出来事に向き合い、ひとつひとつ乗り越えていきます。だからこそ長い冬が終わって春が近づいてきたとき、「一年を通して生きぬいた最初のムーミントロールなんだ」と、胸を張ることができたのです。

過ちを認め、踏みとどまる勇気

冬の寒さを逃れてムーミンやしきにやってきたものたちのなかに、ホルンとスキーが大好きなヘムレンさんがいました。本人は悪気なく、みんなから好かれていると思っていますが、静かな暮らしが好きな生きものたちは騒がしいヘムレンさんが苦手。遠慮なくジャムを食べるので、食料がなくなる心配もありました。
ヘムレンさんがいないほうが平和だとトゥーティッキから諭されたムーミントロールは、「おさびし山にはスキーに向いた斜面がある」とだますような言い方をして、出て行ってくれるよう仕向けます。それを真に受け、喜ぶヘムレンさん。ムーミントロールは恥ずかしくなって、慌てて前言を撤回しました。

何かに挑んだり、悪いやつを倒したり、前に進むだけが勇気ではなく、立ち止まって過ちを認め、謝るのもまたひとつの勇気。ムーミントロールもヘムレンさんも、どちらかが悪いわけではなく、双方に言い分があります。このお話では、めそめそサロメちゃんといった小さなものたちの勇気にも目を向けてみてください。

恐れていた相手へ思いやりと勇気

小説『ムーミンパパ海へいく』で、灯台の島に移り住んだムーミン一家。
ムーミントロールがうみうまのために灯していたカンテラが、みんなから恐れられるモランを引き寄せてしまいます。モランが歩いた地面は凍り、島の草木は怯えてゆっくりと逃げようとしました。自分のしでかしたことを家族に知られたくないし、なんとかモランをなだめたいけれど、灯油はどんどん減っていき、とうとう底をつきます。
意を決し、手ぶらでモランに会いに行くムーミントロール。モランは怒るどころか、よろこびの歌を歌い、体をゆらして躍ったのです。モランがいた砂浜はもう凍ってはいませんでした。

ここでは短く要約しましたが、恐れてきたモランと向き合おうとするムーミントロールの葛藤や気持ち、関係性の変化が丁寧に描かれていますので、ぜひ原作を読んでみてくださいね。

一緒にいれば、もっと勇敢になれる

小説だけでなくコミックスにも、いろいろな勇気が感じられるシーンがまだまだたくさんあります。たとえば、この勇ましいポーズはコミックス『ひとりぼっちのムーミン』のワンシーン。

でもやっぱり、「ムーミントロールの勇気」のキーワードで特におすすめしたいのは小説『ムーミン谷の彗星』。今年限定のアートシリーズ「COMET IN MOOMINLAND(コメット イン ムーミンランド)」に込められたテーマ“We are braver together.(一緒にいれば、もっと勇敢になれる)“というメッセージが全編を通じてひしひしと伝わってきます。

『ムーミン谷の彗星』についてはもっと詳しくなれる特設サイトもオープン。グッズイベント展開もこれからどんどん増えていく予定で、4月からムーミンバレーパークで始まった「ムーミン谷とアンブレラ」のテーマも『ムーミン谷の彗星』です。アンブレラスカイのバルーンのなかの絵にご注目! 今年は夕方にはライトアップ、2026年4月29日(水・祝)~5月10日(日)のゴールデンウィーク期間は花火、5月中旬からは「アンブレラスカイとあじさいロード」も楽しめます。

また、園内のあちこちにある彗星モチーフを探してみるのも一興。

おさびし山エリアには天文台の挿絵を再現したオブジェがあります。

コケムスジオラマは毎時00分、彗星が接近する演出が行われています。

5月の大型連休、ムーミンバレーパークや各地で行われるムーミンイベントをチェックして初夏のお出かけを楽しむもよし、ムーミンの本で冒険気分を味わうもよし。ムーミントロールの勇気が、新しいことにチャレンジしたり、ちょっとだけがんばったり、一歩踏み出したりする後押しをしてくれますように!

文と写真/萩原まみ(textphoto by Mami Hagiwara